営業におけるヒアリングは、単なる情報収集を超えた戦略的なコミュニケーション手法です。従来の営業手法では商品説明や自社の強みを一方的に伝えることに重点が置かれていましたが、現代の営業では顧客の課題や真のニーズを深く理解することが成約への近道となります。
目次
なぜヒアリングが営業成功の鍵なのか
適切なヒアリングを行うことで、顧客自身が気づいていない潜在的な課題を発見し、それに対する解決策として自社商品を位置づけることができるのです。この結果、顧客は「売り込まれている」という感覚ではなく、「自分の課題を理解してくれる信頼できるパートナー」として営業担当者を認識するようになります。
信頼関係が構築されることで、商談の進行がスムーズになり、最終的な成約率の向上につながります。また、ヒアリングで得られた情報は提案内容の精度を高め、競合他社との差別化要因としても機能します。
営業ヒアリングの例文と質問事項10選
効果的なヒアリングを実践するためには、事前に質問項目を体系的に整理しておくことが重要です。以下では、営業現場で即座に活用できる10の質問カテゴリーと具体的な例文をご紹介します。これらの質問を組み合わせることで、顧客の状況を多角的に把握し、的確な提案につなげることができます。
①現状の課題とニーズ
課題やニーズのヒアリングでは単純に「困っていること」を聞くのではなく、具体的なシーンや作業内容に踏み込んで質問することで、より詳細で有用な情報を引き出すことができます。
課題やニーズは○○の粒度を把握することが重要です。これにより、適切な提案・確度の高いクロージングに繋がります。
例文 ・現在の業務で最も時間を費やしている作業は何でしょうか。・日常業務において「もっと効率化できればいいのに」と感じられることがあれば、具体的に教えてください。・理想とする業務の進め方と現実とのギャップについて、どのような点でお困りでしょうか。 |
ヒアリングしたい課題・ニーズ例:
人材系
課題例:医師・看護師などの専門職の求職者が圧倒的に不足している
ニーズ例:特定の資格保有者(社労士、税理士、宅建士等)を効率的に集めたい
IT・システム開発系
課題例:クラウド移行プロジェクトに対応できるエンジニアが社内にいない
ニーズ例:AI・機械学習分野の最新技術に精通した人材を獲得したい
小売・サービス業
課題例:ECサイト運営のノウハウを持つ人材が不足している
ニーズ例:デジタルマーケティングに精通した販促担当者がほしい
②現在のシステム環境
既存環境の把握は技術的な適合性を確認するだけでなく、導入コストや移行作業の規模を見積もる上でも重要です。また、現在のシステムに対する満足度や不満点を聞き出すことで、リプレイス需要の有無や提案の方向性を判断できます。
・現在お使いのシステムやツールについて教えてください。・どちらのメーカーの製品で、いつ頃から導入されていますか。・システム運用において制約になっている要因があれば、併せてお聞かせください。 |
ヒアリングしたい課題・ニーズ例:
人材系
課題例:10年前に導入した人材管理システムで、Web面接機能やAI機能に対応していない
ニーズ例:Web面接機能や適性検査機能を統合したプラットフォームを導入したい
小売・サービス業
課題例:スタッフのシフト管理がExcelベースで、店長の負担が大きい
ニーズ例:シフト管理を自動化し、適正な人員配置を実現したい
建築・不動産系
課題例:現場の進捗報告が紙ベースで、リアルタイムな状況把握ができない
ニーズ例:現場からタブレットで進捗報告できる仕組みを構築したい
③予算・希望価格
予算確認は商談の現実性を判断する重要な要素です。ただし、直接的に「予算はいくらですか」と聞くのではなく、投資の考え方や優先順位を確認する形で進めることで、相手も答えやすくなります。
・このようなシステム導入にあたって、どの程度のご予算をお考えでしょうか。・初期費用と運用コストを分けて考えた場合、それぞれどのようなバランスをお望みでしょうか。・投資対効果の判断基準があれば教えてください。 |
ヒアリングしたい課題・ニーズ例:
小売・サービス業
課題例:店舗改装やシステム導入の予算が限られており、一度に全店舗展開できない
ニーズ例:段階的導入で初期投資を分散させたい
製造業系
課題例:製造ラインの停止リスクがあるため、段階的導入が前提
ニーズ例:人件費削減効果を定量化し、3年以内のペイバック期間を実現したい
医療・介護系
課題例:診療報酬・介護報酬の改定により収益が不安定
ニーズ例:国の補助金制度を活用した導入を検討したい
④希望納期・導入スケジュール
導入スケジュールを把握することで、提案の緊急性や競合他社との比較検討にかけられる時間を推測できます。また、顧客側の社内調整の必要性や決裁プロセスの複雑さも想定できます。
・システムの導入完了をいつ頃にお考えでしょうか。・社内のプロジェクトスケジュールや他のシステム更新予定との兼ね合いはいかがですか。・導入時期に特別な事情や制約がございますか。 |
ヒアリングしたい課題・ニーズ例:
人材系
課題例:新卒採用シーズン(3月)に間に合わせるため、12月までに稼働が必要
ニーズ例:採用活動のピーク前に新システムでの運用を開始したい
小売・サービス業
課題例:店舗改装スケジュールと連動させる必要があり、導入時期が限定される
ニーズ例:夜間・早朝の営業時間外での作業実施を希望
製造業系
課題例:新製品の量産開始時期と重複するため、生産ラインへの影響を最小限にしたい
ニーズ例:生産ラインごとの段階的導入で操業への影響を回避したい
⑤意思決定者・検討部門
意思決定の構造を理解することで、誰に対してどのような訴求を行うべきかが明確になります。特にBtoB営業では複数の部署が関与することが多いため、各部署の関心事や権限の範囲を把握することが成約への鍵となります。
・今回の件について、最終的にご判断されるのはどちらの部署の方でしょうか。・検討に関わる関係部署があれば教えてください。・それぞれの部署で重視される判断基準に違いはありますか。 |
ヒアリングしたい課題・ニーズ例:
製造業系
課題例:現場の工場長は導入に積極的だが、本社の経営陣が投資効果を疑問視
ニーズ例:投資効果を具体的な数値で経営陣に説明できる資料がほしい
IT・システム開発系
課題例:開発部門は最新技術導入を望むが、運用部門が安定性を重視している
ニーズ例:技術的な先進性と運用安定性を両立できるソリューションを提案してほしい
医療・介護系
課題例:看護部門は患者ケア向上を重視するが、薬剤部門は安全性を最優先している
ニーズ例:各診療科のワークフローに合わせたカスタマイズ機能を検討したい
⑥自社商材への印象・懸念点
顧客の率直な印象や懸念を聞き出すことで、提案時に重点的に説明すべきポイントが明確になります。また、競合他社と比較されている場合の差別化要因を訴求する機会にもなります。
・弊社のサービスについて、どのような印象をお持ちでしょうか。・導入にあたってご心配な点や確認したいことがございましたら、遠慮なくお聞かせください。・類似のサービスと比較してお感じになることがあれば教えてください。 |
ヒアリングしたい課題・ニーズ例:
人材系
課題例:「AIマッチング機能は便利そうだが、精度が本当に高いのか疑問」と言われる
ニーズ例:マッチング精度の根拠となるデータや成功事例を伝えたい
IT・システム開発系
課題例:「24時間365日のサポート体制が本当に機能するのか不安」と言われる
ニーズ例:障害発生時の対応体制と過去の対応実績をアピールしたい
建築・不動産系
課題例:「工事現場の過酷な環境でのシステム動作が不安」と言われる
ニーズ例:現場スタッフでも直感的に操作できるUI/UXを体験してもらいたい
⑦導入目的・期待する効果
導入目的を明確にすることで、顧客にとって本当に価値のある提案内容を組み立てることができます。また、導入後の効果測定方法についても事前に合意を得ることで、長期的な関係構築の基盤を作ることができます。
・システム導入によって、最終的にはどのような状態を実現したいとお考えですか。・成功した場合の理想的な姿を具体的に教えてください。・定量的な改善目標があれば併せてお聞かせください。 |
ヒアリングしたい課題・ニーズ例:
製造業系
課題例:採用コストを削減したいが、どの項目でどれくらい削減できるのか見えない
ニーズ例:年間採用コストを30%削減し、浮いた予算を人材育成に回したい
小売・サービス業
課題例:顧客満足度向上を実現したいが、具体的な改善ポイントが整理できていない
ニーズ例:顧客満足度スコアを現在の3.5から4.2以上に改善したい
医療・介護系
課題例:業務効率化を図りたいが、どの業務でどれだけ時間短縮できるか分からない
ニーズ例:診療待ち時間を現在の平均45分から30分以下に短縮したい
⑧過去の失敗経験・懸念事項
過去の失敗経験を聞き出すことで、同じ轍を踏まないための対策を提案に盛り込むことができます。また、社内の反対意見や懸念事項を事前に把握することで、それらに対する回答を準備し、導入への障壁を取り除くことができます。
・これまでに同様のシステム導入で苦労された経験はございますか。・今回避けたい失敗パターンや特に注意したい点があれば教えてください。・社内で懸念の声が上がっている事項はありますか。 |
ヒアリングしたい課題・ニーズ例:
人材系
課題例:新入社員の30%が1年以内に退職してしまう
ニーズ例:従業員の定着率を向上させたい
小売・サービス業
課題例:人気商品の欠品で機会損失が月500万円発生
ニーズ例:需要を正確に予測して欠品を防ぎたい
金融・保険系
課題例:融資審査に平均2週間かかり顧客満足度が低下
ニーズ例:審査時間を3日以内に短縮したい
⑨成功の判断基準・KPI
成功基準を事前に確認することで、提案内容にその基準を達成するための要素を組み込むことができます。また、導入後のフォローアップや追加提案の機会創出にもつながります。
・導入が成功したかどうかを判断する基準をお持ちでしょうか。・効果測定で重視される指標や数値目標があれば教えてください。・評価のタイミングはどのように設定される予定ですか。 |
ヒアリングしたい課題・ニーズ例:
製造業系
課題例:品質改善活動の成果が数値化されていない
ニーズ例:不良品率を0.1%以下に削減したい
小売・サービス業
課題例:売上は上がっているが利益率改善効果が不明
ニーズ例:粗利率を5%向上させたい
金融・保険系
課題例:業務効率化の効果が工数削減以外で測れていない
ニーズ例:審査業務の処理時間を50%短縮したい
⑩他社検討状況・競合情報
競合状況を把握することで、自社の強みを活かした差別化戦略を立てることができます。また、選定スケジュールを確認することで、適切なタイミングでフォローアップを行い、商談を前進させることができます。
・他社さんとも比較検討をされていますか。・どのような基準で選定を進められる予定でしょうか。・決定までのスケジュールはどのようになっていますか。 |
ヒアリングしたい課題・ニーズ例:
人材系
課題例:他社の営業担当から異なる情報を聞いて混乱している
ニーズ例:導入後のサポート体制が充実している会社と契約したい
小売・サービス業
課題例:導入期間の見積もりが会社によって3倍の差がある
ニーズ例:将来の事業拡大に柔軟に対応できるシステムが必要
製造業系
課題例:海外展開を考慮した場合の対応力に差がある
ニーズ例:グローバル展開に対応できる拡張性のあるシステムが必要
ヒアリングシートの記入例【テンプレート付】
実際の営業現場では、ヒアリング内容を体系的に記録し、チーム内で共有できる形で整理することが重要です。以下では、顧客のタイプ別にヒアリングシートの記入例をご紹介します。これらのテンプレートを活用することで、ヒアリングの抜け漏れを防ぎ、効率的な情報整理が可能になります。
テンプレートは以下からご覧になれます。
「ファイル」→「コピーを作成」でご活用ください。
【Sales and Innovation Japan】ヒアリングシート_コピーを作成でご活用ください
toBとしての業界視点(決裁権あり)の記入例
決裁権を持つ担当者との面談では、経営視点での課題や投資対効果に関する質問が中心となります。単なる機能の説明よりも、事業成長への貢献や競争力向上といった観点から提案を組み立てることが重要です。また、導入後の効果測定方法や成功基準についても、具体的な数値目標を含めて合意を取ることで、導入決定の判断材料を提供できます。
以下記入例の一部
詳細は、テンプレートの別シートに載せておりますので、ご参照ください。
【Sales and Innovation Japan】ヒアリングシート_コピーを作成でご活用ください – Google スプレッドシート
toBとしての業界視点(決裁権なし)の記入例
決裁権のない担当者とのヒアリングでは、現場の実務課題と上位者の関心事の両方を把握することが重要です。担当者が上司に対して提案を説明する際の材料を提供し、社内での推進者となってもらうための支援が必要になります。
以下記入例の一部
詳細は、テンプレートの別シートに載せておりますので、ご参照ください。
【Sales and Innovation Japan】ヒアリングシート_コピーを作成でご活用ください – Google スプレッドシート
toCの記入例
個人顧客の場合は、感情的な動機と論理的な判断基準の両方を理解することが重要です。家族の状況や将来への不安といった感情面でのニーズと、費用対効果や具体的なメリットといった論理面での判断材料を整理することで、適切な提案を行うことができます。
以下記入例の一部
詳細は、テンプレートの別シートに載せておりますので、ご参照ください。
【Sales and Innovation Japan】ヒアリングシート_コピーを作成でご活用ください – Google スプレッドシート
上手な営業ヒアリングの流れ

効果的なヒアリングを実践するためには、単に質問をするだけでなく、商談の流れ全体を設計することが重要です。アイスブレイクから始まり、クロージングまでの各段階で適切なコミュニケーションを行うことで、顧客との信頼関係を構築しながら必要な情報を収集できます。
アイスブレイク
相手の緊張をほぐし、話しやすい雰囲気を作ることで、その後のヒアリングがスムーズに進行します。相手の会社のニュースリリースや業界動向、担当者の経歴などを調べておくことで、自然な会話のきっかけを見つけることができます。
また、相手の話に対して適切な相槌や質問を返すことで、「この人は自分に関心を持ってくれている」という好印象を与えることができます。
下記記事では具体例をご紹介しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
【テンプレートあり】即実践できる商談時のアイスブレイクアイデア集 – SalesInsight
ヒアリング
アイスブレイクで場が温まったら、本格的なヒアリングに移行します。この段階では、顧客の現状や課題、ニーズを体系的に聞き出すことが目的となります。ヒアリングでは、「なぜそう思われるのですか」「具体的にはどのような影響がありますか」といった深掘り質問により、背景にある真の課題や動機を理解することができます。
また、相手の話をじっくりと聞き、メモを取りながらも適度にアイコンタクトを保つことで、真剣に話を聞いているという姿勢を示すことができます。
プレゼンテーション
ヒアリングで得た情報をもとに、顧客にとってのメリットを中心とした提案を行います。この段階では、自社商品の機能や特徴よりも、顧客の課題解決にどのように貢献できるかを重点的に説明します。
プレゼンテーションでは、一方的に話すのではなく、要所要所で顧客の理解度や反応を確認することが重要です。「この点についていかがでしょうか」「ご不明な点はございませんか」といった確認を入れることで、双方向のコミュニケーションを維持できます。
クロージング
商談の最終段階では、次のアクションを明確にし、商談を前進させる約束を取り付けます。「資料をお送りしますので、来週お電話でご相談内容を確認させていただけませんか」といった具体的で実現可能な提案を行うことが重要です。
クロージングでは、相手にプレッシャーを与えすぎないよう注意が必要です。無理に決断を迫るのではなく、自然な流れで次のアクションにつながるような提案を心がけます。
下記記事では具体例をご紹介しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
営業のクロージングの例文11選!顧客や商材に合わせた手法を一挙ご紹介 – SalesInsight
営業ヒアリングのコツ
営業ヒアリングは顧客の真のニーズを引き出し、信頼関係を築く重要なプロセスです。 効果的な質問技術と傾聴スキルを身につけることで、成約率を大幅に向上させることができます。
聞き上手になる
効果的なヒアリングの最も重要な要素は、話すことよりも聞くことに重点を置くことです。自分が話すのは全体の2割程度に抑え、残りの8割は顧客に話してもらうことで、相手の本音や真のニーズを引き出すことができます。
さらに、相手の話を要約して確認することも効果的です。「つまり、○○ということでよろしいでしょうか」「△△が一番の課題ということですね」といった形で理解度を示すことで、相手は「この人は自分の話をしっかり理解してくれている」と感じ、より詳細な情報を提供してくれるようになります。
SPIN話法でニーズを掘り起こす
SPIN話法は、状況質問で現状を把握し、問題質問で課題を発見、示唆質問で影響を認識させ、解決質問で改善への意欲を高める4段階の質問で顧客自身に問題解決の必要性を気づかせる手法です。
SPIN話法 S(Situation)状況質問:「現在どのようなシステムをお使いですか」「営業チームは何名くらいですか」 P(Problem)問題質問:「○○で困っていることはありませんか」「効率化したい業務はありますか」 I(Implication)示唆質問:「それによってどのような影響がありますか」「このまま放置するとどうなりますか」。 N(Need-payoff)解決質問:「改善できたらどのようなメリットがありますか」「解決すると どのような効果が期待できますか」 |
この手法を活用することで、単なる情報収集を超えて、顧客の購買意欲を喚起することができます。
「なぜ」で背景まで深掘りする
表面的な要望や課題の背景には、より本質的な問題や動機が隠れていることが多くあります。「なぜそう思うのか」「なぜその方法を選んだのか」「なぜ今のタイミングなのか」といった「なぜ」の質問を重ねることで、真の課題や根本原因を発見することができます。
深掘り質問を行う際は、相手を詰問するような印象を与えないよう注意が必要です。「差し支えなければ教えていただきたいのですが」「詳しい背景をお聞かせください」といった丁寧な表現を使うことで、相手も答えやすくなります。
ミラーリングで信頼関係を築く
ミラーリングとは、相手の行動や話し方を意識的に真似することで親近感や信頼感を醸成するテクニックです。話すスピードや声のトーン、身振り手振り、言葉遣いなどを相手に合わせることで、無意識レベルでの親近感を生み出すことができます。
ただし、あからさまな真似は逆効果となるため、自然な範囲内で行うことが重要です。特に有効なのは、相手の話すペースに合わせることです。せっかちな相手にはテンポよく、慎重な相手にはゆっくりと話すことで、相手にとって心地よいコミュニケーションを実現できます。
下記記事ではミラーリングなどの心理学テクニックについてご紹介しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
営業成績が劇的に変わる!明日から使える心理学テクニック14選 – SalesInsight
顧客を主語にして話す
営業担当者が陥りがちな失敗は、「弊社では」「私どもとしては」といった自社目線での話が多くなることです。これを「御社では」「○○様にとって」「お客様の立場では」といった相手目線の表現に変えることで、顧客志向の営業姿勢を示すことができます。
顧客を主語にした話し方をすることで、相手は「この人は自分のことを考えてくれている」と感じ、提案に対してより前向きに検討してくれるようになります。また、課題や解決策を相手の視点から説明することで、提案内容の実用性や効果をより具体的にイメージしてもらうことができます。
営業ヒアリングに使えるフレームワーク
営業ヒアリングを体系的に行うためには、目的に応じたフレームワークを活用することが効果的です。以下では、実際の営業現場で活用されている代表的なフレームワークについて、その特徴と活用方法を詳しく解説します。
SPIN話法
SPIN話法の特徴は、4つの段階的な質問により顧客自身に課題解決の必要性を気づかせることにあります。また、各段階で得られた情報を後の提案に活用することで、顧客のニーズに合致した説得力のある提案を行うことができます。
SPIN話法 S(Situation)状況質問:「現在どのような○○をお使いですか」「営業チームは何名くらいですか」 P(Problem)問題質問:「○○で困っていることはありませんか」「効率化したい業務はありますか」 I(Implication)示唆質問:「それによってどのような影響がありますか」「このまま放置するとどうなりますか」 N(Need-payoff)解決質問:「改善できたらどのようなメリットがありますか」「解決すると どのような効果が期待できますか」 |
SPIN話法を効果的に活用するためには、4つの質問を機械的に順番に行うのではなく、相手の反応を見ながら柔軟に使い分けることが重要です。
3C分析
3C分析は、マーケティング戦略立案でよく使われるフレームワークですが、営業ヒアリングの事前準備にも有効です。3つの視点から情報を整理することで、的確な仮説を持ってヒアリングに臨むことができます。
Customer(顧客・市場):顧客の業界動向、市場環境の変化、一般的なニーズの傾向などを事前に調査します。 Company(自社):自社の強みや弱み、提供できる価値、過去の類似案件での成功事例などを整理します。 Competitor(競合):競合他社の動向、顧客が検討している可能性のある他社の特徴、市場での位置づけなどを分析します。 |
事前にこの3つの要素を調査・分析することで、商談時により深く踏み込んだ質問ができ、顧客からも「業界のことをよく理解している」という評価を得ることができます。
BANT情報
BANT情報は、見込み顧客の質を判定するためのフレームワークです。4要素で案件の確度を評価し、営業リソースの効率的な配分を行うことができます。
Budget(予算):「どの程度の投資をお考えですか」予算が不明な場合は「一般的に○○円程度になりますが」 Authority(決裁権):「最終的にご判断されるのはどちらの方でしょうか」で意思決定者を特定。 Needs(必要性):「この課題の優先度はいかがですか」「解決しないとどのような影響がありますか」 Timeframe(導入時期):「いつ頃までに導入をお考えですか」 |
これら4つの要素を総合的に評価することで、案件の優先順位を決定し、効率的な営業活動を行うことができます。
MEDDICモデル
MEDDICモデルは、より複雑なBtoB案件の分析に適用されるフレームワークです。6要素から案件を分析します。
Metrics(指標):顧客が成功をどのような数値で測定するかを確認します。 Economic Buyer(経済的決裁者):予算に対する最終的な責任を持つ人物を特定します。 Decision Criteria(決定基準):顧客がベンダー選定で重視する要素を明確にします。(価格など) Decision Process(決定プロセス):顧客の意思決定の流れと手順を把握します。 Identify Pain(課題の特定):顧客が抱える具体的な痛みや課題を深掘りします。 Champion(推進者):社内で自社の提案を積極的に推進してくれる協力者を見つけます。 |
このフレームワークを活用することで、大型案件や複雑な意思決定プロセスを伴う案件でも、体系的な分析と戦略立案が可能になります。
まとめ

いかがでしたでしょうか。
本記事でご紹介した10の質問項目とテンプレートを活用することで、漏れのないヒアリングが可能になります。また、アイスブレイクからクロージングまでの流れを意識し、聞き上手になることで顧客との信頼関係を構築できます。特に重要なのは、自分が話すのは2割程度に抑え、8割は顧客に話してもらうという基本姿勢です。
弊社は、営業に不安がある企業様をサポートし、成果を上げるお手伝いをいたします。毎月の研修を通じて、スキルアップや新たな気づきを得たい方に最適な機会を提供しています。まずは、お気軽にご相談ください。


早稲田大学卒業後、コンサルティングファームを経て、
株式会社Sales and Innovation Japanにジョイン。
大手スキマバイトアプリの営業支援や、ITシステム事業の新規事業立ち上げに従事。
現在、エンタープライズ企業向けコミュニティ“EIN”の立ち上げに奮闘。